「ミネソタ飢餓実験」って聞いたことありますか?
海外の摂食障害の関連情報ではよく出る話ですが、日本ではまだ広くは知られていないかも知れません。
お話をしたい理由は、初めて私が「ミネソタ飢餓実験」を知った時、本当に気持ちが楽になったからです。
- 息を吸うのと同じくらい「当たり前」であるはずの食べることが怖い
- しかも食べたいのに、食べれない。
- どれだけ何を食べればいいか、で頭がいっぱい。
- 痩せて体力もないのに、動いていないとどうにかなっちゃいそう
周りどころか自分自身さえ、分からなかった拒食症の症状の意味が分かって、ほっとしたんです。頭がおかしいんじゃないんだって。
かつての私がそうだったように、意思をコントロールできない自分が嫌と悩む人も多いんじゃないかな。
そんな人にぜひ読んで欲しい!
この「ミネソタ飢餓実験」を理解すると、なぜ拒食症が起こるのか、ダイエットや食事制限が拒食症とどう関係してるのか、そして「食」のこだわりから解放されるカギ、が分かりますよ。
「ミネソタ飢餓実験」ってなに?
「ミネソタ飢餓実験」はアメリカで1950年に行われた“飢餓実験”で、飢餓状態が一定期間続いた時、人間にどんな反応が起こるのかということを調べた実験。
人権をまるで無視、今じゃありえないような怖い実験ですよね。
第二次世界大戦中、爆弾やミサイルの攻撃による被害だけではなく、飢餓や栄養失調で多くの人が苦しんだそうです。
栄養を十分にとれないと、それが体の健康だけでなく精神状態にどのように影響するのかをまとめた文献がなかったために、戦争による飢餓で苦しんだ人々の心と体を回復させるための方法も分かっていませんでした。
そこで、ミネソタ研究所の生理学者、アンセルキース博士は、栄養失調や飢餓で苦む人を助けるために、実験を行うことにしました。
「栄養失調が精神状態にどう影響するのか」「飢餓状態から回復させるために何をするのが一番いいのか」を知り、戦争が終わったあと、人々が心身ともに健康になって、戦争で痛手を受けたヨーロッパを回復させていこうとしたんですね。
「ミネソタ飢餓実験」の方法
飢餓実験のやり方は、簡単に言えば
「①被験者を飢えさせた後 ②栄養を与える」
まず、飢餓実験は3つの期間に分けて行われました。
比較対象としての「制限しない通常食期間」、その後6ヶ月間の「制限期間(飢餓期間)」最後に3ヶ月間の「(制限付きの)リハビリ期間」
実験の参加者は、400人のボランティアの中から、心身ともに健康な36人の男性が選ばれました。
ミネソタ飢餓実験のカロリー制限
比較の3ヶ月間の「制限なしの通常食」では、1日3200カロリーが与えられ、この期間中、実験の参加者は研究所で働いたり、ウォーキングをしたりと比較的活発に過ごしました。
「通常食期間」の後は、1日1560カロリーにまで食べる量が制限され、この「半飢餓」が6ヶ月間続きました。
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半飢餓になった男性たちはまるで拒食症?!
体の変化
制限をはじめてすぐに、実験参加者の体に半飢餓の影響が出はじめました。
それまで、力強く活動していた男性たちの筋力は21%も低下し、常に寒さや疲れを訴えたそうです。
1600カロリーの半飢餓で見られた体の影響
- 心拍数の低下(毎分55→33)
- 胃腸の働きが低下し、便秘に(週に1回の排便)
- 血液の量が10%
- 心臓サイズの縮小
- 耳鳴り
- 足首、顔、膝などのむくみ
- 基礎代謝(BMR)の低下
- めまい
- 筋肉痛
- 身体能力の低下
- 中には、毛穴が硬くなったために肌がガサガサになってしまった人も…。
食事制限によって起きたさまざまな不調の中で、彼らが一番辛いと感じたのは、脂肪が減ったせいで骨が椅子に直接あたり、長時間座っているのが苦痛(汗)ということだったらしいです。
拒食症の人はこの辛さ分かりますよね〜
私はスタバでパソコン作業することが多いですが、お尻が痛くなるので必ず、クッション付きの椅子を選んでました(笑)
この半飢餓で起きた症状で、“不思議なこと”があるんです。
それは、食事制限でげっそり痩せしまったのに、男性たちは自分が痩せていると認識していなかったこと。
それどころか、他の人たちに比べ、自分は太っているんじゃないかとさえ感じていたらしい!
まるで拒食症の人のようですよね。
自信のなさやダイエット思考が、拒食症の痩せ願望や体型の歪んだ認識を起こしているとよく言われます。
でもこの実験から、栄養失調でそれが起きている、と分かりますよね。
もちろん、「痩せていたい」という思いがもともとあり、拒食症になる人もいいますが、食事制限によってそれこだわりががさらに強くなってしまうのです。
基礎代謝(BMR)は、運動や日常生活の活動を除いた、生きているだけで必要なエネルギーです。
食事制限で基礎代謝が落ちるのは、体が命を守ろうとするためです。
制限によってカロリーが不足するので、基礎代謝を下げて、無駄にカロリーを消費しないようにするのと同時に、少しの量のカロリーでも溜め込もうとするんです。
ダイエットをするほど、代謝が下がるというのはこのため。
また、むくみは拒食症で多い悩みの一つです。
栄養失調から起きますが、回復期に栄養をとり始めたとき、むくみが起こることもよくあるようです。
それは、今まで制限していた状態に体が慣れていたために、バランスを取り戻そうとして起きていること。
食べ始めてすぐは、水分が貯まるために1−2kすぐ増えるのはよくあることなので安心してくださいね。
精神的な変化
食事を制限された男性たちは、今まで大好きだったことに全く関心がなくなりました。
異性に対しても興味がなくなり(性欲減退)、自分をかっこよく見せようという気持ちもなくなったそう。
その関心がなくなったの代わりに起きたのは「食」に対しての異常な興味とこだわり。
ある人は料理本を読み始め、食べ物の写真に釘付けになり、レシピを集めに集めたそうです。
これ、あなたもやってません?という私もやっていました(笑)。当時読んでいた本は、食べ歩き本、食べ物の写真がたくさんのった温泉旅館の本、レシピ本ばかり・・・
何かを制限をすれば、それがもっと欲しくなります。
食事を制限すれば、食にばかり興味が湧くのは当然なのです。
「食べものが頭から離れない」と悩む人もが多いですが、シンプルに体が飢えているんですよ(!)。
お腹が空いたら食べるのは普通であれば、本能的にできること。
でも、ダイエット中の人や摂食障害の人は、何をどれだけ、いつ食べればいいのか、で頭がいっぱいになってしまう。
今もしこれ食べたら、あとで何食べればいい?制限するべき?これカロリー高すぎるんじゃいない?食べても大丈夫?
・・・
私もまさにそうでした。
この男性たちのように、摂食障害であろうがなかろうが、制限すれば「食べること」で頭がいっぱいになるのは当たり前のことなんです。
食をコントロールするほど、自分が食にコントロールされてしまうのです。
彼らにとって、何よりも楽しみは食事の時間になりました。
時間通りに食事が用意されなかったり、長い時間待たされれば、イライラ。
たいして美味しい料理ではないのに、彼らにとっては最高においしく感じたそう。
中には、量が多いと感じるために、与えられた料理と水を加えて混ぜて食べた人もいました。
半飢餓後の栄養リハビリ
半飢餓期間の後は3ヶ月の「制限付きの栄養リハビリ期間」で食事が増やされました。
参加者は4つのグループに分けられ、それまでよりも400、800、1200、1600、それぞれ多いカロリーが与えられました。
飢餓から回復するのにどれくらいの量が一番効果があるのかを見るためです。
これから分かったのは、一番低い量のグループは、全く変化がなく、常に食べ物で頭がいっぱいで回復傾向が見られなかった。
サプリメントしてビタミンやタンパク質を与えても改善しなかったそうです。彼らに必要なのはカロリーだったんですね。
アンセルキース博士は、半飢餓から回復し、もとの健康と力を取り戻すためには4000カロリーは必要だと結論づけました。
このリハビリ期間中、とくに最も高いカロリーをとったグループの男性ほど、落ちていた基礎代謝が回復し、代謝が上がったそうです。
一番低い+400カロリー食事の人たちは、基礎代謝がなかなか戻らなかったのに、一番高いカロリーのグループの男性は、代謝で燃やすエネルギー量が一気に増えました(代謝が上がった)。
”拒食症だけでなく、食事制限から回復するために、あなたが思う以上に沢山のカロリーが必要なんです。
回復の過食は、単に拒食の後によくある、だけでなく回復の鍵なんです。
代謝が上がるということは、体と心(メンタル)の回復も早まるということ!!
リンク
制限からの回復に本当に必要なのは〇〇カロリーだった
この実験には続きがあるんです。
“制限付き”の栄養リハビリの後、飢餓実験自体は終わりましたが、参加者の何人かはその場に残され、さらに8ヶ月ほど実験を続けました。
この間、「無制限」に食べることが許されたんですが、彼らはどうしたと思いますか?
無制限の栄養リハビリ期間で、平均して1日5000カロリー、なかには1日で10,000カロリー以上食べることもあったそうです。
そして彼らは、どんなに食べても満たされない、満足感が分からない、といった感覚が何ヶ月も続いたそうです。
ピンとくる人も多いんじゃないかな。
これは拒食症の回復ですごく大事なこと。
治そうと頑張っていても「食べても満たされない」と感じると、食べ過ぎじゃないかと不安になるよね。
でもここで「食べたい」の声に100%応え、制限なしに食べたいだけ食べることが克服の秘訣なんです。
そうして心も体も「食のこだわり」から完全に解放されるのですね。
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回復期間中、体重が増得ることに対して男性たちはどう感じたでしょう?
拒食症じゃないから、へっちゃら?
いいえ!
いわゆる拒食症じゃない彼らも、体重増加にものすごく抵抗感がありました!
特にお腹やお尻周りについた脂肪が気になり、太りすぎたんじゃないか、ぶよぶよでみっともないんじゃないかと心配する人もいました。
拒食症や過食嘔吐から回復中の人も経験あると思う。太りたくないと“頭で”意識する以外に、太った“感覚”が怖いんですよね。
この無制限の栄養リハビリで、もとの体重(制限を始める前)よりも重くなった人もいました。
その“余分”な体重は、時間が経つにつれ、意識的に制限をすることなく「自然に」落ちたそうです。
つまり、無理に、意図的に体重をコントロールしなくても、体はちょうどいいバランスを保とうとするし、そうなるように作られているということ。
ミネソタ飢餓実験が教えてくれること
このミネソタ飢餓実験から私があなたに伝えたいこと。
それは、食事制限やダイエットは単に「痩せる」「体重が落ちる」というだけではないこと。
よくある1200カロリー“ダイエット”なんて危険でしかない。
最近はダイエットだけでなく“健康法”として、「少食」や「朝ごはん抜き」食事法を勧める人もいます。
たとえ「部分的な」の制限でも、飢餓のために体の代謝がダメージを受け、体の健康だけでなく心の健康まで奪ってしまう可能性もあります。
一部の人の健康をよくするための一つの「ツール」になっても、それが「健康」とは限らないし、ましてや全ての人に通用するわけではありません。
「痩せていても、自分らしく生きられればいいよ」と言う人も中にはいます。
私も昔カウンセラーからそう言われました。
でもこの実験を見ても、私自身の経験からも決してそうは思えない。
心のセラピーで生き方は楽になっても、体重を制限している限り、人生までも制限してることになるからです。
摂食障害で一番知っておいて欲しいのは、エネルギー不足そのものが、食の異常なこだわり、罪悪感、太ることへの恐怖感、胃の不快感、イライラ、運動強迫、、、などの拒食症で特有の症状を起こすということなんです。
摂食障害のきっかけが心の傷だったり、摂食障害があることで受けた心の傷をやすために心のケアはもちろん必要。
でも、拒食症を完全に克服するためには体の回復と栄養リハビリなしには進まないの。
栄養失調で体の臓器の働きが落ちてしまうけど、脳も臓器もひとつ。
だから思考や感覚も普通じゃなくなるのは当然で、本人だけでなく周りもそれをもっと理解するべきだと私は思うのです。
体重が増えたら、脳や生理はちゃんと元に戻るんだろうかと不安だよね。でも安心して。
① 食べ物とその量で体だけでなく心の健康にもネガティブに作用する、けれど
②飢餓を経験しても、長い目で見て、健康にそれほど重大なダメージは残らないだろう
と言っています。
ただし!
それはあなたが制限を全てやめ、体が欲しがっている分を満足するまで食べれば、の話ですよ。食べ過ぎじゃないか、太ってしまうんじゃないか、とても不安だよね。でもあなたの体は何をすべきか、どうなるべきかちゃんと分かっているから。
あなたの体とあなた自身を信じてくださいね。
まとめ;
- エネルギー不足そのものが、拒食症の症状を起こす
- 太る感覚が怖いのは飢餓の副作用
-
「食べたい」の声に100%応え、制限なしに食べることが克服の秘訣
- 沢山食べるほど代謝が上がり、体と心の両方の回復が早まる
-
栄養リハビリで増えた体重は意図的に調整しなくても、自然に落ちる
-
体重を制限するというのは人生を制限するということ
あなたは、いろんなことを経験して、幸せを感じながら自由に生きるために生まれてきたの。
その本来のあなたに戻れるよう全力で応援しています。
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免責事項; この記事は摂食障害の理解と知識を広げる目的で書かれたものです。病気を診断、治療あるいは克服を約束する物でないことをご理解ください。その上で食事量を変えるなどする場合は必ず専門の機関を受診しご自身の責任で健康管理をなさってください。